1993年のアサヒグラフで「コム・デ・ギャルソンの20年」という特集があった。そこにはインタヴューのほか、篠山紀信が取り壊される前の日本家屋でモデルを撮影した写真などが23頁にわたり掲載されていた。素材の取り合わせや扱い方などの斬新さはもちろんだが、素足で廊下に立つ日本人モデルがギャルソンの服を着て立っている姿に感銘を受けた。そこにはそれまで多くの日本人が感じてきた「西洋コンプレックス」が微塵も無いように見えたからである。そして、撮影に使われた家屋を何処か想起させる家に出会ったことが、「百草」開廊のきっかけのひとつになった。
「枕カバーや布団カバーを洗濯するときに裏返す、あのときにできる無造作な形、そんな印象の服を作りたい。 文章、メモのような形で川久保さんのデザインが伝えられることもあるという。・・・」ギャルソンの服に現代美術的なものを感じるのは、最初に服の形やデザインありきではなく、このエピソードのように、気になっている日常の視点を、布を通して翻訳し服という形にしているからであろう。「人が服を着ることの意味」をいつも問うているようにみえる。服という最終的な形は異なっていても、ギャルソンに見受けられる日常の視点の具現化を、坂田敏子と安藤明子の中に以前から見ていた。
mon Sakataの服は洋服なのに、洋服臭さが感じられない。服が成立する最小限の要素で止めることで、布の布らしさを残し、世界中の誰が着ても似合うニュートラルさを獲得している。明子は一見不自由になりがちな直線裁ち・手作りという自分に課したその拘束条件を、抑制された美に昇華させる材料にしている。二人の共通点は洋服からデザインを引き算したものではなく、日常服をそれぞれの生活の中で形や布使いの遊びを加えつつも無駄のない造形にしている点だ。工業化と共に20世紀に発展したカジュアルな洋服の歴史を斜めに横断しているだけでなく、和洋を問わず19世紀以前のまだ布が貴重であった頃の布の文化への憧憬が感じられる。それぞれの出発点は違っていても、布使いを楽しみながら様々な着こなしが出来る完成を求めない造形という方向性は、アプローチと手段の相違を易々と越えて違和感なく取り合わせが楽しめるものとなっている。
糸・布・衣展5回目は、名古屋で古着を扱うAzy:rにゲスト参加して貰った。そこはアントワープ派やギャルソンに出会うことが多い店だ。イワタさんがデザイナーズブランドの古着をセレクトすると、確かな目による安心感はもちろんのこと、ファッションを越えた知識と独自の感性が活かされて一つの表現になる。今回は着こなすことに焦点を当て、イワタトシ子・正木なおがつくるユニット [TO 22] のコーディネートにより、「FASHION×SESSION」という形でファッションショーとライブパフォーマンスを初日に催すことになった。ジャムセッションのようにそれぞれの持ち味を活かしつつ、取り合わせと着こなしによって和も洋もない世界にどう昇華させるか、またギャルソンを憧憬しつつ、ベクトルの違いをどう提示できるか楽しみである。時代の流れに寄り添いながらも距離を置き、流行に踊らされない三者三様の衣服を、セッションさせながら着こなしを楽しんで頂ければ、新たな「布の呼吸」が聞こえてくるにちがいない。
百草 安藤雅信 |
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坂田敏子 copper fiber coat |
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1977 古道具坂田の一角に子供服mon Sakataを始める
1983 独立して目白通りに移り、大人の服が中心となる
1997 新装mon Sakataに於いて20周年記念「糸・布・衣展」
浦京子・安藤明子・坂田敏子
1999 「糸・布・衣展」二回目の展覧会を百草で開く
2001 「服展」(糸・布・衣展III) 坂田敏子・安藤明子 百草にて
2002 25周年を記念して「Sanmarutenjiku Fit T」を出版
(編集・山口デザイン事務所、撮影・奥秋貴子)
2003 「レンテンの藍」展(mon Sakataにて) 安藤明子のサロン出品
2004 「糸・布・衣展IV」坂田敏子・鈴木かつ子・安藤明子 百草にて
2005 「レンテンの藍II」 百草にて
建築家の中村好文さんに誘われ「欲しかったモノできた」展の
メンバーに参加。家具のデザインをする。
本「Sanmarutenjiku Fit T」展 やまほんにて
掲載されている物に加え、新たに残糸で遊んだものを展示
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イワタトシ子
1958 大分県生 テーラーを営む両親の間に生まれ布に囲まれながら育つ
音楽に目覚めたのが高校の頃…その後名古屋にて音楽企画会社を手
伝う
1978 外国語専門学校中退 音楽、アーネット・ピーコック、ゲンズブー
ルを溺愛しつつこの頃、ヨージヤマモト、川久保玲の作品に感動
1985 友人と名古屋初のデザイナーズブランド古着店をオープン
1990 独立、アズィールを立ち上げる 以降【感じる事】をテーマに多種
多様なイベントを企画開催
1995 インディーズファッションショウと音楽のコラボレーションによる
イベント『ナイスな夜明け』を東京スカパラダイスオーケストラを
迎えて開催
1998 パルコにて天野天街氏を脚本に演劇の手法を取り入れたインディー
ズファッションショウ『創、装、想』を開催
2006 アズィール21年目を迎え、新たに2006年ノージャンルの企画ユ
ニット[TO 22]を結成
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正木なお
1973 熊本人の両親のもと、静岡県生 以後12回の引越しを経験 空想ば
かりして育つ 小学生の頃より詩を書き出す 高校の頃から社会運動
に目覚める
1993 バブル崩壊のあおりをうけ内定取消し 以後好きな事をしようと決
意 アパレル、美術、広告、飲食など多種多様な仕事を経験 仕事の合
間にギャラリーなどをまわり、美しいものに感動する日々 男性社会
に疑問を持つ 飲み屋でイワタトシ子氏に遭遇 以後イワ タ氏の企画
を手伝う
2002 ギャラリーを成立させるために場を持つ事を決意
2004 八事雲雀ヶ丘に、国やジャンルを超えて美しい物を集めた店生活装
飾Life decoを始める
2005 ギャラリー feel art zeroを開廊 こけら落としに安藤雅信氏の彫刻
展を開催 以後現代アートの視点で様々なジャンルの企画展を開催
2006 パティシエの友人とサロン・ド・テ アルエットゥをオープン
昔から思っていた古今東西、衣食住、アートの大切さをあらためて実
感する日々 兼ねてからのパートナー、イワタトシ子氏と更に自由な
形態を求めてノージャンルの企画ユニット[TO 22]を結成。
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安藤明子
1965 兵庫県西宮市生まれ
1977 4回目の引越しで名古屋に定住
1992 安藤雅信と結婚、岐阜県多治見市での生活が始まる
1994 古今東西の布を素材に衣服の製作を始める
1997 mon Sakata 「糸・布・衣展」に参加
1998 夫と「ギャルリ百草」を始める |
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