「茶と糧菓」出版記念展
20代から茶の湯の稽古を始めて35年も続けてこられたのは、大の甘党だったことも要因の一つである。母の料理ではお萩や善哉が年に数回は食事として出ていたし、遠足や運動会のおにぎりには甘く漬けた焼酎梅が必ず入っていた。甘党の英才教育を受けておとなになり、餡子がないと落ち着かない性格となったことは言うまでもない。インドで半年過ごした時は、豆の専門店を覗いては小豆を探すほど恋しくなったのを思い出す。
飲料嗜好品にどのような形でお菓子は出すかは国の文化によって異なり、茶会となるとさらにその特色が出やすい。お茶時間とお菓子時間を分けている中国での茶会は理にかなっているが、生菓子を頂いてから抹茶を喫む習慣に慣れている身には、お菓子を待たされるのは辛いものである。中国茶が国際化していくのを目の当たりにして、お茶とお菓子が共に発展してきた日本の役割や存在価値を出していかなくてはと真剣に考えるようになった。そんな時に出会ったのが、和菓子界の革命児である菓子屋ここのつ−溝口実穂である。彼女と組めば、どんな飲料嗜好品にも合うお菓子が提供でき、新しい喫茶文化を育んでいけるのではないかと直観した。
室町時代以降から続く喫茶文化を誇りある伝統として受け継ぐだけで良いのか、時代の要請に応えているのかと考え、このままでは他文化と同じようにガラパゴス化するのではと危機感を持ち、活動を書籍のかたちで視覚化・言語化し、日本の喫茶文化の一端を世界の人に知って貰おうと思った。新しい茶文化を提案することに意義を見出し、書籍では禅と文人趣味を経糸とし、茶道や煎茶道はもちろんのこと、昨今の中国茶、珈琲、カフェ文化、ハーブティなどの飲料を緯糸にして「喫茶」という文脈を提案した。
この展覧会では書籍に掲載された器・道具を中心とした喫茶に関わる道具の展示と、茶会を催します。また関連イベントして、新潮社の工芸青花主宰で「北京・現代・生活工芸」について、編集長の菅野康晴氏と対談をします。芸術も含め、喫茶文化には日本人の心性が表れているが、そのルーツを探る中国への旅を菅野さんとしました。普段、当たり前に頂いてお茶や珈琲について、ちょっと立ち止まって考える企画展です。
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