写っているものと見えてくるもの
先月イタリア中部とパリを旅行した。地震や台風などの天災が余りない国の文化の有り様は当然違ってこようが、自然は別として街並が風景になる歴史の継続性はやはり羨ましく思った。街の中心にある教会に行けば、中世の絵画や彫刻はいつでも見られる。日本では生活と工芸が身近にあるが、欧州では美術がその役目を担っている。そんな欧州で山本さんの作品がとても評価されているのは、絵画出身の写真家であることも大きな要因であろう。しかし、山本さんは果たして写真家なのだろうか。
ターナーやモネ、華岳に牧谿など具象画なのに抽象画のように見えるものに魅力を感じる。山本さんの写真も具象を題材としているが、それは写すという行為までの話であり、現像の過程で画家の目になり、具象的な要素は画面構成の一要素として扱い、モチーフの本来の意味は減少させられ抽象画のような印象を持つ。そうすることで逆に、「これは何だろう」という創造力が喚起し、更に画面全体へとそれは膨らむ。また、山本さんの作品は、写真を平面として扱わず、画面に合わせて見せ方を工夫し、箱に入れたりアンティークの額に入れたりして一つのオブジェとして完成されている。写真家でもあり、現代美術家でもあるということになろうか。
今回、内田君と山本さんの2人展が成立したのは、名古屋の書肆壺中天で上梓された「川」が基になっている。山本さんの写真に内田君の陶函か陶板が付いている、オブジェとしても魅力のある写真集である。百草での展示で、火花を散らすか融合するか、楽しみである。
百草 安藤雅信
山本昌男 年表
1993 「空の箱」シリーズの作品の発表を始める
1994 アメリカで初の個展開催
1996 ニューヨークで個展開催など
アメリカ各国に作品が広まる
2001 「中空」シリーズ発表
2006 ヨーロッパでの展示も盛んになる
2008 「川」シリーズに取り組む
2009 モスクワで個展開催
2011 北京、ブラジルでの展示が叶い、世界各国
で作品が紹介されている
2012スペイン、イタリアでも個展開催の予定
*主な作品取り扱い画廊 / 個展開催年
Yancey Richardson Gallery, ニューヨーク / 96,01,03,08,11
Jackson Fine Art, アトランタ / 99,03,05,09
Craig Krull Gallery, サンタモニカ /04,05,08,11
Galerie Camera Obscura, パリ / 06,11
Fifty One Fine Art Photography, アントワープ/ 09
Mizuma Art Gallery, 東京/ 06,09
Gallery Sincerite, 豊橋 / 93,99,06,09
*主な作品収蔵美術館
Harvard University Art Museums, ケンブリッジ
Victoria&Albert Museum, ロンドン
Meison Europeenne de la Photographie, パリ
The International Center of Photography, ニューヨーク
Musei Civici Comune di Reggio Emilia, レッジョエミリア(イタリア)
Museum of Fine Arts, ヒューストン
www.yamamotomasao.jp
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