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カメとウサギ |
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「日本初の磁器は1616年、朝鮮の陶工・李参平が有田泉山で・・・」と大抵の焼き物関係の書物に書いてある。しかし、それは現代のレベルで見る完成された磁器の事を指し、それ以前の試行錯誤しながら作られていた未熟な時代は除かれている。未熟と書いたが、後の古伊万里とは別の魅力があり、味わいのあるうぶさを賞賛して、初期伊万里とか初源伊万里と呼んでいる。その美しさが発見されてまだ50年ほどしか経っていない。
ほとんどの美術・工芸が明治時代の西洋化に揉まれ、大きく変容していった中で、焼き物・漆・布は江戸時代以前から生活必需品であり、西洋の影響を受けながらも、途切れず日本独自の発展を続けている。特に焼き物は素材の特質により、紀元前のものも残り、今まで膨大な量が作られてきた。価値付けされ残されてきたのは上級品だけで、焼き物史の9割以上は消費されたものや、焼け損なって廃棄されたものなどが占め、先述の初期伊万里のように盲点の中に消えているものは、まだまだ多いと言える。
内田作品の魅力を西洋の美学や芸術論でとらえようとするとスルリとかわされるのは、彼の立つ軸足が明治以降確立された「陶芸」という芸術分野にないからで、有史以来の壮大な焼き物の地理と歴史を把握していくと、ようやくその魅力が少しずつ見えてくる。陶芸の世界で装飾を加算したり、技術力を見せていけば、個性的で新しく見えるのであろうが、そういう行為を内田氏は制作の目的としていない。彼はよく「アーティスティックな切り口がなければ・・・」と口にするが、それは歴史の盲点に埋もれている焼き物を独自の目線で拾い出し、解釈することで新しい作品に転化することを指していると思う。その独自の目線については、アンテナが一方向にしか向いていない私には不可知の領域で、アンテナを全方向に向け、受信感度を上げても、彼が拾い出したものが見えてくるまでにいつも数年かかる。そして、ある時突然作品の切れ味の鋭さに気付くのである。古今の世界の焼き物に精通し、幅の広さ・センスの良さ・新しい作品への転化の切れ味から肩を並べて思い出せるのは、小山冨士夫である。共通しているのは、窯跡など現場を知り、深い技術の理解があることだ。普通の作り手では気付かないような技術の「知恵の輪」が作品に隠されていて、その速度に同じ物作りの我々でもとても追いつけない。
1万年は続く日本の焼き物史に百数十年前割り込み乗車してきた近代と西洋美術に、カメとウサギの駆けっこが重なって見えた。あの話は単にウサギの慢心と油断を戒めているだけではなく、カメに勝つという目先の競争だけにとらわれず、遠い先のゴールをカメのように見つめなさいと言っているように思う。内田氏の歩はまさにそれであろう。今展では初期伊万里400年を記念して白磁と、お茶の道具全般の制作をお願いした。カメとはいえ、1万年の焼き物史を、今のところ未だ40才の身で横断しようとしている内田氏の足は、かなり早いと言える。
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百草 安藤雅信 |
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内田鋼一 |
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1969
1990
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愛知県名古屋市生まれ
愛知県立瀬戸窯業高校陶芸専攻科修了
三重県四日市市の製陶所にて轆轤の賃挽き職人として働く
以後、海外(ヨーロッパ・東南アジア・西アフリカ・南米等)の窯業地などに滞在し、現地の町・村・部族・家族・個人…それぞれのヤキモノをつくる環境・状況を目の当たりにし、そこから生まれてくるモノの必然性や成り立ちを学ぶ
同時に、それぞれの国・地域の古窯や古陶・土器などの調査に携わり、窯の構造や作り方、焼成方法・土など原材料の造り方や成型方法など、ヤキモノを造る上で根源的かつ初歩的な事を知る |
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1992
1993
2000
2003
2004
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三重県四日市に移り、独立
個展を中心に活動
「うつわをみる 暮らしに息づく工芸」展(東京国立近代美術館)
「UCHIDA KOUICHI」展(三重県・Paramita Museum)
作品集『UCHIDA KOUICHI』を求龍堂より刊行
静謐なかたち「内田鋼一 Uchida Kouichi」works:2003-2004
(富山県 4th MUSEUM RIVER RETREAT雅楽倶)
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2006 |
「陶芸の現在、そして未来へ Ceramic Now+」(兵庫陶芸美術館)
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2007 |
「SOFA」(ニューヨーク) |
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2008 |
Melbourne art fair(オーストラリア メルボルン)
新進陶芸家による「東海現代陶芸の今」展(愛知県陶磁資料館)
Rosso:UCHIDA Kouichi・Dniela Gregis(イタリア ベルガモ) |
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スペイン・イギリス・イタリア・オーストラリア・アメリカ・ベトナム・タイ・韓国・中国・台湾・インド・西アフリカ・南米等で制作及び発表
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内田鋼一 クレの小屋'08 白磁大壺'09 |
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