歩みの速度
NHK-FMにスイッチをひねれば、クラシック音楽番組の合間に、ジャズもロックも軽音楽として一まとめに少しだけ紹介されていた時代、サブカルチャーのジャズや現代美術にのめり込めば込むほど、その逆ベクトルの民芸が気になってきてはいた。西洋アカデミズムに対抗出来る理論と美意識を兼ね備え、おまけに宗教と創作が一体となっている民芸の思想に救いを求めたかったのだろう。現代美術作家に憧れ、哲学的な個性を求められることに疲れていた時、「作ることが悟りになる」という思想のほうが自分にとって自然に思えたのである。そんな時、創作と宗教を同一化させていた宮沢賢治に近づきたくて、岩手に何度か足を運んだ。賢治が生前唯一出版した本が盛岡の光原社から出され、その店が東北の民芸の核となっている話は以前聞いていたが、当時の私にとって敷居が高く、その時訪ねることは出来なかった。
それから20年が過ぎ、悟りは更に遠ざかり、民芸も遠くから眺めているだけだが、世界に誇れる唯一の美術思想だという思いは益々強くなっている。古道具坂田の外部での展覧会が唯一続けて行われていることから、一度坂田さんに光原社について尋ねたことがある。そのお話から窺える様子は神々しくもあり、百草の一つの理想となっていった。坂田さんや吉田喜彦さんの縁で光原社を初めて尋ねることができたのは2年前。昭和初期から続く光原社の歩みの速度が、東北の地に確実に足跡を残しながら一定なのは、賢治や柳たちから引き継いだ精神性と思想を核とした融合が未だに行われているからであろうと思った。
そして無理にお願いして、東北を初めて紹介する今展へと結実した。この展覧会の開催に誇りを感ずると共に、今後の指針にして来年の干支のごとく、牛歩の歩みで進みたいと思う。
百草 安藤雅信
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