ギャルリももぐさ/百草
作品/百草
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企 画 展 今までの企画展・今後の企画展へ
真木千秋 / ちくちく布 '08
出展内容
真木千秋
ちくちく布(ウールとタッサーシルクの試織などの布をカラフルな糸で刺し子した小布)、ストール、服、生活の布製品など

安藤明子
10周年の、記念に真木さんに作っていただいた「carmaine red ウールナーシ格子」を用いた10のサロン
真木さんの布と様々な布を用いて作ったサロンや上衣など
蚕 衣 無 縫 V
2008
10月25日(土)〜11月9日(日)
11:00〜18:00
会期中無休
作家在廊日
10/25(土)26(日)27(月)

「着こなしの会」10月25日(土)13:00〜
真木千秋さんと安藤明子が、ストールやサロンの着こなしのアドバイスをします。また、ワードローブに合わせてのコーディネートもお楽しみ頂きたく、既にお持ちのストールやサロンを是非お持ち下さい。
座談会「今までの10年とこれからの10年」
10月25日 16:00〜
真木千秋 土田真紀 竹内典子 安藤雅信
竹林カフェ in ももぐさ
26日(日)27日(月)は東京都あきる野市・真木テキスタイルスタジオより、スタッフRakeshが、ももぐさ10周年記念メニューとしまして「プーリーバジ」(揚げたチャパティとじゃがいものカレー:インドでお祝いの時につくるもの)を作ってくださいます。
ももぐさカフェ
前回ご好評を得ました「ルヴァン」のパンを使い、
真木さんに因んだインド風のランチをお出しいたします 
ピクニック気分でどうぞお楽しみください
ナーシと百草
土田真紀 

 野蚕から家蚕へ。人が絹という繊維にいかに愛着を覚え、貨幣以上の価値を見出してきたかを思うとき、この変化が人にもたらした恵みは計り知れないものであったと思われる。もともと野生であった蚕が人の手によって育てられる蚕となるまでにどのような経緯があったのか、その詳細については知る由もないが、真木さんの布に出会い、ナーシと呼ばれる糸が野蚕のタッサー繭を樹の枝と結ぶ「紐」から得られたものであることを知ったときは目から鱗が落ちた。真木さんが用いる多彩な糸々のなかでも一際強い存在感を放ち、織り込まれた布に明確な個性を与えているナーシは、野蚕の繭にとっては、自らを樹の枝に結びつける唯一の絆であり、生命線ともいえるだろう。そのせいなのかナーシの糸はとても力強い。しかし樹と切り離され、人為的な環境で育つ家蚕にとっては不要のものである。臍の緒のような「紐」を失うことと引き換えに、家蚕はナーシの糸とは対極にある細く白く透明な糸で自らの身を包むようになったのだろうか。
 私が知るこの十年の真木さんは、野蚕の繭ならではのナーシに誰よりも引かれ、そこから様々な表情を引き出し、布として活かしてきた人のように思われる。そのなかでも百草とのコラボレーションによる発表の場である「蚕衣無縫展」において、ナーシの存在感は際立ってきたように感じる。初回に吹き抜けの空間を飾ったナーシの大布、第二回展で、玄関を入ってすぐの板の間に訪れる人を迎えるかのように展示されていた「あめつち」、あるいは縮絨と起毛の可能性を探った布においても、さらにその後の裂織へのオマージュともいえる布においても、そこここに織り込まれたナーシの表情は特に印象深く思い出される。それはおそらく百草の安藤明子さんもナーシの糸や布に深い愛着を感じてきた人だからで、また百草の展示空間にナーシはいつもしっくりとなじんできた。ナーシに生来具わっている強さをそのままに受け止められるのは、ここ数十年、私たちが美術館やギャラリーで見慣れてきた白い壁面のニュートラルな展示空間ではなく、百草のような場なのではないだろうかとあらためて思う。
 百草は百年ほど前に建てられた民家の居住空間をほぼそのまま活かしている。土間、板の間、畳の座敷、仏間、茶室、廊下など、本来役割の異なる部屋が連なり、障子や襖によって自在に仕切られたり開け放たれたりする。同じ部屋も時刻や季節によって明るさが変化し、雰囲気も刻々と変っていく。床や壁、天井、建具や細部の素材や質感もまた多様である。ガラス越しに庭の佇まいが室内に融け込んでくる。そこに置かれるものはこうした百草の空間に影響されずにはいられないし、光は朝方から夕刻まで時々刻々に変化し、光が違えばものは異なって見える。しかしこのことがものや作品にとってマイナスでないことを百草のこの十年の活動は十分に示してきたと思う。それぞれの場所で、それぞれの時刻に、見る人それぞれに応じて、そこにあるものは異なる力を発揮する。その意味で普遍的な見え方や価値の感じ方は存在しない。真木さんが繰り返しインドを訪れ、自ら布を織るなかで野蚕の繭やナーシのよさを次々と見出していったように、安藤さん夫妻が百草の活動を通じて百年前の住居に具わる懐の深さを引き出してきたように、価値や美しさは見ようとする人には、初めはぼんやりとであっても、やがてはっきりと見えてくる。逆にいえば、最大公約数的な真っ白の箱のような空間が、知らぬ間に「ニュートラル」な空間や「普遍的」な価値という幻想を与え、人々の感性に制約を設けてきたかもしれないのである。
 ただしナーシは強いだけではない。不思議なことに、ナーシは用い方によっては何の変哲もない布や衣にもなり得るということにも、真木さんと安藤さんの仕事によって私は気づかされてきた。ナーシの糸は、その活かし方次第、他の糸との取り合わせ次第で、変幻自在に姿を変え、無限に表情を変化させる可能性を秘めている。一見両極にみえる日常と非日常、用と無用、平凡と非凡、強さと優しさは実はひとつのもののなかにある。その間を時に応じて行き来するなかで少しずつ何かを見出していくことを、この十年の間に「蚕衣無縫展」や百草を通じて知ることができたように思う。

安藤明子 10周年記念carmine redウールナーシ格子
袋巾着サロン'08 No.1/単サロン 裾ナーシ/重ねサロン コバルトブルー
安藤明子 10周年記念carmine redウールナーシ格子 袋巾着サロン'08 No.5
うねの織物  真木千秋
 どういうわけか、不揃いで、ゆらいでいるもの、まっすぐでないものに惹かれて、触りたくなったり、もう一度のぞきこんでみたりする。織りも経糸と緯糸がぴんと張っている状態より、織り上げて機からおろし、水にくぐらせ、異なる糸と糸の重なりによってできあがる風合いにいつもわくわくしている。ある日テクスチャーによるたて縞の織物が作りたくなり、柔らかいえんぴつを使って、フリーハンドで線を引いてみた。まっすぐ描けないが、何本も引いているとアンバランスの中にそれなりの心地よい縞が見えてきた。そのスケッチを拡大して、柄を起こし、リピートをとって作ったのが「うね」である。タッサーシルクナーシの手紡ぎ糸を織り込むことで、微妙によろけがおこって、自然によろけてしまったような地模様の縞になり、飽きのこない布で、長年私たちの定番の織物として織り続けてきた。
今回うねの織物では1番小さいストール20cmx180cmを経糸のウールを染めて、8色をそれぞれ単色にしてナーシと織り上げた。たとえば落ち葉をつい拾い上げるように、ちょっと手にとってみたくなるような1枚の布になってくれればと思う。
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