サブカルチャーの底力
若者の間で60年代に起こったヒッピーや学生運動のような自由闘争は、70年にほぼ終息しサブカルチャーとなって70年代以降一気に花咲いた。とはいえ、若者のエネルギーを向ける選択肢はまだ少なく、それに社会での扱いも冷たかった。ほとんどがクラシック枠のNHK-FMでロックやジャズを聴こうとすると、軽音楽の僅かなコーナーに耳を傾けるしかなかった。しかし、当時のサブカルチャーは教養にはなっていないものの、今や当たり前の文化になった。ビートルズを不良の音楽とは誰も言うまい。形式化したサブカルチャーは文化となり、また新たなサブカルチャーが生まれる。時代と共に変化するのだ。
学校とか図書館や美術館はメインカルチャーの殿堂である。図書館はサブカルチャーである漫画を積極的には置かないだろうし、小学校の音楽の授業でエレキギターを教えるところもないだろう。美大や音大も同じである。サブカルチャーは下位文化とか対抗文化という意味だが、どんな子供でも親の期待に応えようと最初は皆メインカルチャーを目指す。それに満足できない早熟な子供や落ちこぼれがサブカルチャーに興味を持っていく。その芽を摘むか育てるかそれとも放っておくか親の責任は大きい。
前川夫妻をメインとサブの図式で分析すると面白い。二人とも幼年時代にサブカルチャーの目を自生させていた節がある。そこで養った感性と技術を活かして美大に入学。それぞれ美大でアカデミックな洋画を勉強し、現代美術に移行する。現代美術も本来はサブカルチャーだが、今は形式化しつつある。そして彼ら夫婦の二乗したエネルギーが現代美術で不完全燃焼を起こした時、ロロカロハルマタンに変身してサブカルチャーを謳歌する。どちらが本当の前川夫妻か。どちらもだ。個人名の仕事も極自然に子供時代に養ったサブカルの芽が育って種になっているし、ロロカロは大学卒業後に興味を持ったサブカルが種になっている。どちらも彼らにとっては自然な作業なのだ。
御上主導のメインカルチャーの役割が、大衆文化花盛りとなって終わりつつある。逆にサブカルチャーのエネルギーをメインに還元する時代が到来した。サブとメインの両方の種をたっぷり引き出しに仕舞っている二人が、今展はどの引き出しを引っ張り出してくるか楽しみである。 |
百草 安藤雅信 |
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前川千恵 バカンスバック 帽子「バロン」 |
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「内職と本業?」
思えば僕が田舎で素朴な、なぜ?を引きずりながら美術の道に進もう、と決めつつあった高校生の頃、すでに世のなかではメインカルチャーとサブカルチャーという位置関係が緩やかに、だが確実に変化しつつあったのだ。その変化はバブルをはさんで急激に進行し、20世紀が終わる頃にはまるで最初からそうであったかのように、アートの装いをスマートに整えて、それまでのサブカルチャーがメインのポジションについた。勢力図は完全に逆転してしまった。メインで僕らがアカデミックに学んできたものも、こういうのが現代美術だとして学生時代に吸収してきたものさえも今や“クラシカル”スタイルになってしまった感がある。
最もその急激な変化のおかげで、かつてのなぜ?への答えがようやく明快に見え始めた。授業中にせっせとたしなんだ内職を堂々と(笑)生かせるときがようやくやってきたのだ。
美しさの基準さえその変化はめまぐるしい。ついていくのは大変だ。かといって“変わらない何か”を信じすぎると表現することがつらくなる。大切なのは、同時代、同世代をどんな形で感じられるか?“共時性”を持ちうるかどうかであり、そのことこそが生きた現代美術の本質的な部分なのではなかろうか。 |
前川秀樹 |
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前川秀樹 略歴
1967年生まれ。
1989年、武蔵野美術大学油絵学科卒業。1991年、彫刻で作品発表を開始。個展、グループ展、コンクール等を繰り返す。
1996年、渡仏、帰国後、ロロカロハルマタンとして、生活道具を製作開始。松本クラフトフェアなどに出品。現在は造形作家、造形アーティストという肩書きで、彫刻、絵画、生活道具などを平行して発表し続けている。
前川千恵 略歴
1967年生まれ。
1989年、武蔵野美術大学油絵学科卒業。その後、絵画の道には入らず、会社勤めをしながら織の基本を学ぶ。 1996年、ともに渡仏後、ロロカロで生活道具の製作発表を開始。主に布などの柔らかい素材を使って、織、鞄、帽子、下駄などの発表を続ける、暮らしの布道具作家。
今回の出品
前川秀樹・・・・・・ 椎の木の大きな作業テーブル 折りたたみのできる鉄と革張りの椅子と机のセット(子供用) 二人分の丸いコーヒーテーブル 古い鉄の部品の作業ライト アイロンのランプ 2シーターベンチ ひとがたの彫刻 花びらの欠片シリーズ小品 など
前川千恵・・・・・・ カンバス布や麻布にペイントの大きなバカンスバッグ 再生綿の手つむぎ糸で作った帽子 下駄 その他小物 |
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