正統と代用
焼き物の最高峰とされている磁器が作られたのは、中国・唐の時代からとされている。次に作り始めたのは朝鮮とベトナムで、遅れること400年程。更に400年遅れて江戸時代初期、日本・有田で。瀬戸は江戸後期、美濃は幕末になってからである。ヨーロッパでは有田より100年遅れてドイツ・マイセンで作られ始めた。幻の技法を求めてスパイ合戦もあったようだ。焼き物を大きく二つに分ければ、磁器などの石焼きと陶器などの土焼きがある。磁器の原料となる石が発見されるまで、それぞれの国では土で磁器の代用品を作っていた。粉引・志野・太白・白オランダ・ボーンチャイナなどは、磁器への憧れの産物である。 磁器は玉より白く硬く、光を透かし、純粋無垢で求められる到達点は一点であり、多様性を認める方向性は少なかった。それに対して、磁器に向かって作られていた白い陶器は、それぞれの国で採れる土や釉薬の原料などが個性として表れ多様性に富んでいる。磁器を正統とすれば、陶器は代用ではあるが、焼き物の歴史は陶器の歴史でもあると思う。 お茶をこの話に当てはめて考えると、また違う側面が見えてくる。茶とコーヒーにも、また代用品があるのだ。韓国には漢方の影響を受けた多品種の代用茶があるし、チコリの根から作られた西洋のチコリーコーヒーやタンポポの根のタンポポコーヒーなど枚挙にいとまがない。コーヒーでは生産国と消費国が違うという事情から、流通の関係などで値段が高くなったり手に入らなかったりして代用コーヒーが生まれている。お茶はその点複雑で、西洋特にイギリスは紅茶と綿が欲しくて印度を植民地にしたし、韓国ではお茶の木が寒さで育ちにくく、代用茶が医食同源とも相まってとても発達している。華美を嫌う儒教の影響もあるようだ。中国に香りの強いお茶が多いのは、きれいに澄んだ無臭の水が余りないから匂い消しとして発達したらしい。ジャスミンティはその代表格であろう。代用の歴史は、短所を長所に転換する知恵の総集編なのである。 正統と代用という言葉の印象とは異なって、既に代用を楽しむ文化は育まれている。関係は対等というべきだろう。そんなお茶の文化の一端を今回は楽しむ展覧会にしたい。 |
百草 安藤雅信 |
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伊藤慶二 家一間 2004 |
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伊藤慶二 彫刻・茶器・食器
新作を中心とした今展は、一室に付き一点で空間を意識した展示がなされ、生活空間として彫刻のある風景を作り出せた。陶器の彫刻というとオブジェといわれるが、彫刻でもオブジェでもなく、作られた作品というより慶二さんそのものが滲み出て形になったような温かみと同時に鋭さを感じさせる。我々と同じものを見ていても伊藤慶二というフィルターを通すと、見逃した別の何かを気付かせてくれる。まさにこれらの作品は生活道具だと強く感じた。食器もその延長線上にあり、使いこなせるととても楽しくなる。初期の北欧クラフトの影響が見受けられる用途と意匠の融合した食器や、古道具をユーモア溢れる解釈で再構築した食器などの伊藤慶二ワールドを楽しんで頂きたい。
日野明子(スタジオ木瓜) 茶に関する作家もの・職人もの全般 ネット全盛の世の中で、電車で全国の作家・職人の仕事場に足を運ぶ希有な問屋さん。仕事を通り越しての仲介役としての使命感は強く、その行動力は尊敬に値する。日野明子セレクトの展示室として、今回木瓜ルームを設ける。
鄭玲姫(チョンヨンヒ・李青) 韓国料理・韓国茶
京都にある李青は食事とお茶の美味しい店。その空間は鄭さんのリビングルームにお邪魔したかのように知性と凛とした空気が感じられる。日本で育まれた独自の李朝文化と祖国への自尊心が相まって作られた空間である。今回は会期中、鄭さん直伝の韓国茶をお出しし、また鄭さんにも百草で腕をふるって頂いて料理会を催します。
滝晶宣(信濃屋) ころうどん・支那そば
多治見が全国に誇る唯一のうどん屋。詳しくは「和風が暮らしいい。」21号をご覧頂きたい。多治見で開業して60年、一貫した技術と思想から作られるころかけうどんは、姿勢を正して食してしまう程、無駄をそぎ落としたこれ以上ものは出来まいと思わせてしまうもの。今回は「信濃屋茶会」と銘打ち、信濃屋さんの空間でころうどんと支那そばとお茶を召し上がって頂く百草出張茶会にした。
堀口一子(茶 かんかん栞館)
若くして中国茶を学びながら自身の店を持つ。先生と生徒という関係ではなく、彼女の中国茶への愛情を運んで頂き、おしゃべりをしながら一緒に中国茶を楽しみたい。伝説的銘茶「大紅袍」を始め、「文山包種茶」、「凍頂烏龍茶」を様々な器で。 中国茶入門のきっかけになればと思う。
内田鋼一 湯呑
一見何でもないようなものの中に美を発見する力は天性のもの。またそれを咀嚼して形に的確に作る事が出来るのは、現代では彼の他に見あたらない。
内田京子 片口・湯呑・豆皿
黙っていても優しさと芯の強さがオーラとして出ている京子さんの食器。手捻りだけで作られる彼女の食器の中でも、特に手で包み込む湯呑などはそのオーラを感じやすい。
石井直人(陶)・井山三希子(陶)・岩田圭介(陶)・浜口恵(金工)
横山秀樹(ガラス)・山口和宏(木製品)・・古道具 ほか
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