ギャルリももぐさ/百草
作品/百草
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真木千秋 / あめつち2005
蚕 衣 無 縫 III
2005 4月29日(金・祝)〜5月15日(日)
11:00〜18:00
会期中無休
作家在廊日
4/29(金・祝)30(土)5/7(土)16:00まで
出展内容
真木千秋
「あめつち2005」
ストール、服、生活の布製品
安藤明子
100枚のサロン・・・サロンという型のなかで
真木千秋の布を様々な布と取り合わせ縫い取り
100枚のサロンが生まれました

「サロン着付けの会」4月29日(金・祝)16:00〜
100枚のサロンを皆様にお召し頂きます。そして一枚一枚のサロンに縫い取られた布の糸や織りについて真木千秋さんにお話いただきます(着付け:安藤明子)
今回真木千秋さんのお仕事を福岡でご紹介されている沼田みよりさんがストールやサロンのコーディネイトのお手伝いに来て下さいます(4/29)
併せてオカベマサノリ氏の古代ビーズのアクセサリーもご覧いただきます
ももぐさカフェ
前回ご好評を得ました「ルヴァン」のパンを使い、
真木さんに因んだインド風のランチをお出しいたします 
ピクニック気分でどうぞお楽しみください
一枚の布、一枚のサロン
土田真紀 
 真木千秋さんは布のつくり手である。その布を一つ一つ手にとってしばらく眺めていると、たくさんの糸がそれぞれに語りかけてくるような感覚にとらわれる。インドの野蚕から紡がれたざっくりした糸、沖縄の苧麻の細く透明な糸、鈍い光を放つ日本の赤城の節糸。あるいはやはりインド生まれのナーシと呼ばれるウールのような質感の極太の糸と黄金の輝きをもつムガシルクの極細の糸。普段見慣れている布とは違って、同じ細さで真っ直ぐにぴんと伸びている糸は少ない。縮れていたり、太さが不均一であったり、節があったりする。常識的な価値観からいえば決して優等生ではない糸が、一枚の布のなかで互いを支え合い、生かし合って見たこともないような布の表情を生み出している。もちろん、そのままで存在感のある糸もあればどちらかといえば控えめな糸もあり、主役と脇役もあるといえばあるが、どの糸もそれぞれに役割を果たしていて、どの一本が欠けても全く違う布になってしまうのだろうと思われる。
 実際、真木さんのつくる布に二枚と同じものはないのではないだろうか。同じ名前を持つ布であっても、個別の糸の微妙な差異は織り上がった布に反映されずにはおかないし、色に関しても同じである。真木さんは、どんな条件でも同じ色に染めることより、同じ糸、同じ染料、同じ手法でも、その年の気候や当日の天候によって染まる色が変化する、その微妙な色の違いをむしろ大事にするので、実際には二度と同じ色の組み合わせはないに等しい。何枚つくろうと品質をできるかぎり揃えるというのがプロの仕事のあり方ともいえるが、真木さんはまぎれもなく布づくりの専門家でありながら、均質であることを求める世界とは、発想の基盤やものの考え方からして違っていると思う。

 布は古代から租税としても商品としても貴重であった。人間が生きていく上で欠かせない衣食住のひとつ、「衣」を支えるものだからだろう。人の役に立つものだからこそ布には高い価値が与えられ、用途に応じて高い品質が求められてきた。暖かさ、軽さ、柔らかさ、肌触りのよさ、文様の美しさ等々、人間のさまざまな欲求に応じるべく、技術の粋を尽くしてすぐれた布はつくられてきたように思われる。錦、羅から唐桟、結城紬、越後上布までそれぞれにすばらしい布であることは間違いない。ただ、そうした明確な価値の座標軸に沿って垂直方向に上を目指す布づくりの蔭で、決してつくられなかった無数の布があったのではないか。つくることができなかったのではなく、つくろうとしなかった布、あるいは見過ごした糸や見逃した色が実はたくさんあったのではないか。真木さんのつくった布を見ているとそんな気がしてくる。
 真木さんの布は飾るためにつくられたものではない。しかし本質において用途から発想してつくられてはいない。それゆえに、見過ごしがちな糸や見逃しがちな色彩をもそのままに受け入れ、織り手であるインドの職人さんそれぞれの個性に委ねつつ、次々と誰も見たこともないような布を織り上げてきたのだと思う。この展覧会のためにつくられた「あめつち2005」もその一つで、自身が以前に織った布をもとに、いわば裂き織りのような手法で織られている。布からつくられた布。布の中の布。遠い昔から布をつくり続けてきた人々と残された布に敬意を払い、同時にそこから刺激を受けつつ、真木さんの試行錯誤の布づくりはまだまだ尽きることがないようである。

 用途から発想してつくられたのではない真木さんの布に、真木さん自身も思いもかけぬ形をもたらしたのが安藤明子さんの仕事であった。四年前にももぐさで開かれた最初の「蚕衣無縫展」以来、真木さんの布を安藤さんがサロンやとんがり型上衣、腰巻など、用途をもつ形にするという形でのコラボレーションが続いてきた。その先に今回の「100枚のサロン」がある。基本的な姿勢に何ら変わりはないが、これまでと少し違う点があるとすれば、定番や新作の布に加え、真木さんが以前につくった布の残布や試し織りの布が多く使われていることである。それらは一枚一枚、形や大きさもふぞろいで、組み合わせる布も全体の構成も100枚すべて異なっている。縫い上がったサロンをいくつか見せてもらったが、真木さんの手から安藤さんの手に渡った布が、そのままの姿で受け止められつつ、ラオスの泥染めの紬や生成りの三河木綿との自在なアンサンブルによっていっそう生き生きとして見えた。
 サロンは筒状の布に体を通して腰に巻きつけ、紐を結んで着る。安藤さんはこの形をサロンと名づけて、当初からつくり続けてきた。布本来の直線を大事にし、できるかぎり布に鋏を入れたくないという、その服作りの原点ともいえる。きわめて単純な構造であるから、誰でも思いつくことはできるかもしれないが、そこに潜む思いもかけぬ豊かさを引き出すことは、簡単なようで簡単でない。しかし安藤さんはそこに向かってゆっくりと着実に進んできた。何より眼の前にある一枚の布がもつ個性や独自の力を見抜き、どうすればそれぞれに最もふさわしい形で生かし得るかを直観的に見て取る感性の持ち主だからだろう。その安藤さんが真木さんの布と出会い、サロンもまた大きく世界が広がったのは自然なことであった。真木さんの布ほど一枚一枚が多様な個性や表情を持っている布はほかにない。布そのものであることが最も自然な布と、布そのものがもつ力を少しも損なうことなく日常の生活に生かそうとするサロンという形との出会いは、これ以上ないほど幸運な巡り合わせだったと私には思われる。衣服として身に纏っていても、一枚の布として広げられていても、サロンは自然で美しい姿をしている。このような形で生活のなかにあり、受け手の受け取り方ひとつで、日常から非日常にいたるさまざまな次元の間を自在に往き来するもの。芸術を芸術として他から切り離し、純粋化しようとしてきた無意識の 枠から解き放つ何かがここにはないだろうか。

 人と糸、人と色、糸と色、糸と糸、経糸と緯糸、織り手と布、布と布、布とサロン。今回の展覧会では、一枚の布、一枚のサロンを通してすべてが一回限りの不思議な出会いをしているといってもいい。真木さんと安藤さんの出会い、これらの布やサロンと人との出会いもまた。布にはまだまだそのような場としての可能性が残されているような気がする。
安藤明子 / 100枚のサロン No.14
真木千秋
好きなように暮らし、ほしい布をつくって17年ほどになる。 そして最近“もの”にあまり興味を持てないことが多くなってきて、困っている。 ものをつくっている本人だというのに…。 それでも、時々“どきっ”とする何かに出会うことがある。 そのものの背景にある何か、そのものの存在、エネルギー…。 そうしたエネルギーなり力が、私の中を通り抜け、ものとして形をとっていくのだろう。 そのどきっとするものが、明子さんのてになるサロンだったり、 昨日届いた三谷さんのDMの“おぐその布”だったり、雅信さんのつくる空間だったり、 土田さんの感じ方やことば(布の中の布..…。など)だったりするので、 みなさんとお仕事できること本当にありがたく思っています。
真木千秋 作家年表
1960 武蔵野に生まれ育つ
1980 武蔵野短期大学工芸テキスタイル科卒業後渡米 ボストン美術館付属美術学校、マサチューセッツ州立美術大学の夜間部を経てロードアイランド造形大学(RISD)に編入
1981 ヘイスタック・クラフトスクールにてファイバーアティストのSheila Hicks のアシスタントをする
1982 ロードアイランド造形大学在学中"Textile for 80th展がきっかけで桐生のテキスタイルプランナー新井淳一氏と出会う
1985 ロードアイランド造形大学卒業後ニューヨークでフリーのテキスタイルデザイナーとして働く その間中南米、東ヨーロッパなどを訪ねる
1990 東京の山里・五日市に住み着いて創作活動をはじめ、妹でやはりRISD卒業後ジャックラーセンスタジオ、川島織物でテキスタイルデザインを手がけていた真木香が加わり、真木テキスタイルスタジオのインドでの織物作りに本腰を入れ始める
1994 沖縄西表島の染織家石垣昭子さんと出会う
1996 東京青山に真木テキスタイルスタジオをオープンする
1997 石垣昭子さん真砂三千代さんと南の島発信「現代の衣」真南風プロジェクトをはじめる
1998 真南風をニューヨークで発表
2000 南アフリカ、ケープタウン のデザインスクール・Madessaで開催された「Textile Tomorrow」ワークショップにて講師
2001 百草にて安藤明子さんと蚕衣無縫展開催
2002 百草にて蚕衣無縫II 展開催
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