糸、布をまるごと生かす |
編集記者 竹内典子 |
真木千秋さんの布はいつも素材感に満ちている。幾種類の糸を用いる時も、あるいはたった一種類の糸を用いる時でさえも、素材そのものの豊かな存在感は変わらない。
たとえば真木さんが扱う絹糸は、野蚕、家蚕と幾種類もあって、同じ繭でも使う部分に応じて糸のとり方が変わり、サラサラしたもの、張りがあるもの、やわらかなものなど糸の個性は多様だ。それは麻、苧麻、綿、ウールにもいえることで、そうした多様な糸の中から心に響く一本を手に取り、その糸から感じて次の一本を選ぶという具合に織り進み、糸のとり方や組み合わせを楽しんで織り上げている。すると身に纏った時に糸そのものを感じる、あの生き生きとした布ができるらしい。織り上げた布は自身の暮らしの中でじっくり使い、糸をとる時や布を織る時と同じように、使うことからも素材のありようをみつめている。その丹念な素材への眼差しが、使うほどに風合いを深める暮らしの布を生んでいる。
安藤明子さんの衣服も、その無駄のない簡潔な造形の中に布の豊かさが生きている。素材の息づく布との出会いは、布の美しさを損なうことなく生かし、衣服や暮らしの布として用を得たいという願いとなり、結果布に不要な鋏を入れることなく、まるごと布を使う平面構成の衣服が生まれる。たとえばサロンと呼ぶ筒型の腰衣は、着るだけでなく腰に巻く、敷く、包む、吊すなど、衣服でありながら風呂敷や間仕切りのように多機能に用いることができて、一方で壁に掛けて布そのものの美しさを目で味わうという楽しみ方も忘れていない。
安藤さんの衣服づくりには、布との暮らしから培われる多様な提案があり、その手を通る時、存在感のある真木さんの布が、思わぬ貌をのぞかせる。それは鋏を使って残布を生む洋服からは決して得ることのできない、まるごとの布が湛える糸や織りの造形であり、平面構成の衣服を着た時に生まれる女性的な曲線の美しさなどである。
真木さんと安藤さんのコラボレーションは二回目となるが、今回真木さんと安藤さん夫妻が、布づくりの段階から気に入っているのがタッサーシルクnasiとナチュラルウールの交織布。縮む性質の強いnasiに触発されたクリエーションはひとつの見所といえるだろう。 |
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真木千秋 nasiウール格子布(縮絨) 安藤明子 とんがり型上衣 |
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真木千秋 作家年表 |
1960 |
武蔵野に生まれ育つ |
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1980 |
武蔵野短期大学工芸テキスタイル科卒業後渡米ボストン美術館付属美術学校、マサチューセッツ州立美術大学の夜間部を経てロードアイランド造形大学(RISD)に編入 |
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1981 |
ヘイスタック・クラフトスクールにてファイバーアティストのSheila Hicks のアシスタントをする |
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1982 |
ロードアイランド造形大学在学中"Textile for 80th展がきっかけで桐生のテキスタイルプランナー新井淳一氏と出会う |
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1985 |
ロードアイランド造形大学卒業後ニューヨークでフリーのテキスタイルデザイナーとして働く その間中南米、東ヨーロッパなどを訪ねる |
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1990 |
東京の山里・五日市に住み着いて創作活動をはじめ、妹でやはりRISD卒業後ジャックラーセンスタジオ、川島織物でテキスタイルデザインを手がけていた真木香が加わり、真木テキスタイルスタジオのインドでの織物作りに本腰を入れ始める |
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1994 |
沖縄西表島の染織家石垣昭子さんと出会う |
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1996 |
東京青山に真木テキスタイルスタジオをオープンする |
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1997 |
石垣昭子さん真砂三千代さんと南の島発信「現代の衣」真南風プロジェクトをはじめる |
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1998 |
真南風をニューヨークで発表 |
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2000 |
南アフリカ、ケープタウン のデザインスクール・Madessaで開催された「Textile Tomorrow」ワークショップにて講師 |
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2001 |
百草にて安藤明子さんと蚕衣無縫展開催 |
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百草「蚕衣無縫展」前の私は、ウキウキしています。 何故だか百草の安藤雅信さん明子さんと話していると、 自分のどこか片隅にある創造的な部分がくすぐられるのです。 次から次へとやりたいことが生まれてきます。 私はふつう、糸を心地の良い素材として、糸に耳を傾けるようなつくり方をしています。 でもその一方、糸を遊び道具として、面白さを追求する… それもまた、楽しくてしょうがありません。 そんな私にとって、百草展は格好の口実です。 野蚕タッサーシルクnasiの糸をウールと交織して縮むだけ縮ませたり、 nasiの布を裂いて織ったりひっかいたりしてモワモワの表面をつくったり.... いつもとちょっとちがう布たちを触りに来てください。 |
真木千秋 |
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