造形としての器 |
ギャラリーを始めて3年がたち、少しずつ見えてきたこと分かってきたことがある反面、新たな疑問もいくつか生じてきた。その内の一つに陶芸というものがある。陶芸全集なるものを古い順から捲っていく。縄文はここがいいねえ、弥生はあそこがいいねえとやっていって明治までくるとパタっと人と意見が合わなくなる。まるで細い糸の上を綱渡りするかのように好みの物を見付けるのは難しくなり、大正、昭和それも戦後になると、太平洋で遭難して島を見付けるのが困難であるように好みの物を見付けだすことは難を極める。昭和・平成と何度も陶芸ブームがあり、作家や愛好者が増えているのに反比例して好みの物が少なくなり、自分は陶芸が好きではないのでないかとか、陶芸不感症者ではないかと疑いたくなる。そう私は現代陶芸海で遭難したのである。
陶芸とはなんぞや。広辞苑によれば「陶磁器の芸術」とあるから、おそらく明治になって西洋から入ってきた個人主義や芸術運動の影響から生まれた言葉であろう。陶芸という言葉が生まれて何が変わったのか。江戸時代から明治、そして現代になっても陶芸には専門的な技術が必要であるから、職人的技を持っていることは必然である。変わったとすれば、それはその職人や作家の意識であろう。素晴らしい陶磁器が芸術性を帯びることは否定しない。しかし、江戸時代までの物作りたちは芸術作品を作ろうという意識はなかったと思う。明治から現代にかけて、芸術にしようと意識をもって作られたものが「陶芸」とされているような気がする。作られた結果が芸術になることと、作る目的が芸術であることの差異は大きい。江戸時代までの職人と同じような気持ちで作っている作家はむしろ減少していよう。
この度6月の終わりから三カ月間、制作の為にフランスから招待したイザベル・ルーとジャンマリー・チュイレーの夫婦によれば、「私たちは一発狙いの陶芸家ではない」と言う。林みちよさんも同じであろう。ヨーロッパでもまわりの陶芸家は皆一発狙いだと言う。一発狙いというのは、上記の芸術作品を制作することを目的としている作家達のことだと思う。作る動機や目的は至って単純でよく、外部に求めるのではなく、自分の内部から発するものであってほしい。自分が欲しいと思うもの美しいと思うもの、あの場所にこう飾ってみたい、あの人にこのように使ってもらいたいなど。今展の三人の作品からは動機の純粋さが見えるし、作る喜びが見る側の我々にも伝わってくるものである。楽しんで制作をし、無駄な力が抜けているものはどんな空間にもよく馴染む。そのような作品を陶芸とは呼ばず、造形としての器として見たいと思う。 |
百草 安藤雅信 |
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林みちよ 作家略歴 |
1991 |
「U展」埼玉県立近代美術館 |
1992 |
朝日現代クラフト展奨励賞 |
1994 |
京都野外陶芸展 |
1996 |
BONSAIの器展('96-'98) |
1997 |
Galerie Satelite Espace Mariek(パリ/'98-'00) |
1998 |
日中陶芸家交流展(湖北省美術館・武漢) |
2000 |
朝日陶芸展
OBJECTS展(ニューヨーク) |
2001 |
FIVE CHESTER STREET SOUTHPORT(オーストラリア)
国内個展多数
(画廊椿・ギャラリー無境・ギャラリー田中・ギャラリー颯) |
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この頃、今頃
時々のうつろい、気配、変化していく形にフルフルと心ゆすられ、手が動きます。左手だけを200個、石を、蓮弁を、象の耳を作り続けていくうちに、自然界の事物の根源が多少なりとも見えてきます。 見えない主に常に畏敬の念をもち、生きとし生けるもの、心の縁に埋めて・・。 |
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Isabelle ROUX 作家略歴 |
1954 |
ベルサイユに生まれる |
1975 |
アトリエ設立 |
1987 |
本格的にセラミストとして活動 |
1992 |
パリおよびフランス内外で個展、グループ展を続ける |
2000 |
ギャラリークリストフ デルクール(パリ・常設)
ギャラリーラフアイエット(パリ)「ノマード展」
『KENZO』パリ・ニューヨーク 店内装飾用に制作
年数回、パリおよびフランス内外個展・グループ展 |
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Jean−Marie THUILIER 作家略歴 |
1952 |
フランス生まれ |
1973 |
アトリエAnnide-MARTIN(パリ)にてロクロを学ぶ('73-'74) |
1975 |
アトリエをSalle Argeles(オッ・トビレネー県)に開設 |
1981 |
個展・グループ展をフランス国内で開始する |
1993 |
アトリエ移転 |
1999 |
ギャラリーElement Terre(フランス南西部・ランド県) |
2000 |
ギャラリーMayorga(フランス南西部・アトランティツク県) |
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